だっとさん。 

 若い時分はスピードに酔い前を走る車の存在すら許せなかったが、廃人となったことを境にして、その性格はガラリと変わった。
 今でも私が長距離・長時間運転を苦にしないのは、自分のペースで走ることを心がけている点が大きい。もちろん、法に触れない範囲で。先日、たがみよしひささん宅からの帰路、碓氷峠の下りも、遠くに見えていた後続車が徐々に近づいてきたので、さっさと左に寄って先に行かせたし、富岡付近の県道でも後ろの車に道を譲り自分のリズムを保った。
 40代も半ばとなると、つまらぬことで腹を立てるより、腹の下を立てることの方が重要だったりもする。


 陽が沈んで1日の仕事を終え、夕食の材料と酒を買ったスーパーからの帰り道。交差点を曲がりバイパス国道へ出たところから、1台の後続車が車間を詰めてきていることに気づいていた。
「あ? 煽ってンのか? 後ろのヤツぁ」
 サイドミラーで後方を確認。
「乗用車か。あのヘッドライトは…。ノート? いや、3代目プリメーラか」
 私の軽トラは、指定速度50km/hの国道を60km/hにて走行中。チンタラ走っている訳ではない。
 サイドミラーで見る限り、車間は約3m。煽るなら1mくらいまで詰めて来ても良いところだが、その気配はない。しかし、車体が左右に動く様子は、明らかに煽っている。
「なぁんだ、テール・トゥ・ノーズも出来ねェ下手っクソかよ」
 シフトダウンで50km/hまで減速したところ、3代目プリメーラらしき後続車はパッシングを浴びせて来た。
「やっぱ煽ってンのか。しょーがンねーなー。相手ェしてやっか」
 私の服装は、上下迷彩服に地下足袋。肉体労働の成果なのか、スピードに酔っていた若い頃に比べると二の腕は1.5倍くらいになっているし、腕力も脚力も増し、がっしりしている。体力には自信があるし、ガキの頃に習った空手の覚えもある。ましてや軽トラの狭い車内にはチェーンソー2台と腰道具(鉈と手ノコ)があるし、荷台には手斧2本と薪割り斧もあるから“道具”にもこと欠かない。トンファーはないけど。
 どうやらプリメーラの後方には走行車両がいないらしい。
「これなら、他車に迷惑をかけることもあンめーよ」
 追突されぬよう徐々に速度を落とし、ハザードランプをつけ、ブレーキを踏んで停止。こういう場合は、左に寄せることなく後方の進路をふさぐ。
「何かご用ですか?」
 作り笑いを浮かべながら後方の運転手へ話かけるべく、シートベルトを外し軽トラを降りようとしたその瞬間。シルバーメタリックの3代目プリメーラは、ものすごい勢いで横道へと逃げて行った。まさしく「脱兎」の如く。
「けッ。逃げるんだったらケンカ売るんじゃねー、このクソ馬鹿。貴重なガソリンを無駄にしやがって」
 あまりの素早さに、ナンバーを見ることすら出来なかった。でも、次にこのプリメーラが来たら、逃げ道のない橋の上かトンネルの中で止まるとしよう。
「何かご用ですか?」
 と、作り笑いを浮かべながら。

行くっきゃない。 

 復活したジープを見せびらかしたいし、焚き火屋トップページの雰囲気も変えてみたいし、何より新しい「作品」を見てみたい(依頼したい)との思いから、なぜかチェーンソーや薪割り道具まで積み込みたがみよしひささんのご自宅を訪問したのは、2月上旬のこと。
 その際、
「こんなシチュエーションってどーですか?」
 とか、
「こんなイメージはどうでしょーか?」
 とか、
「こんな感じの絵が良いかも」
 など、誠に勝手な希望を告げ、
「んじゃ、こんな感じかな?」
 と、ササッとラフ(裸婦ではない)を描いてもらったことは覚えている。しかしながら、仕上がりの締め切り日を設定していたことは、たがみさんのブログ「たがみよしひさのひねもすのたり(http://taua1yosh2.blog39.fc2.com/)」で触れられるまですっかり忘れていた。自慢じゃないが、私の記憶力はニワトリ級。どーだ、まいったか!
 たがみさんのブログに記された「焚き火屋」に関する一連の文章を拝見し、
「そーいえば、締め切りを設定していたんだっけか?」
 という具合。
「そーいえば、“締め切り日を設定した方が、仕事に区切りをつける意味でも良いかもしれませんね”とか言いながら“とりあえずこの日を締め切りにしましょう”とか言ったんだっけか?」
 締め切りを設けたことすら忘れていたのだから、それを何月何日にしたのか覚えているはずもない。
 「元編集者」とか「もの書き」を名乗りながら締め切りを忘れるヤツなんて、遅刻癖の治らない小学生以下であり、予約した患者を毎回1時間以上待たせる歯大工並みである。
「作品の受け取りと、ジープを見せびらかしに行かなきゃ」
 たがみさんに連絡し、4月20日に訪問することとした。予報によれば天気も良さそうだし、絶好のジープ日和ではないか。
 しかし…。
 当日朝に目覚めてみれば、極度の鬱状態。体がだるく、やる気が起きない。何とか朝飯らしきものは口に出来たが、着替えることすらままならず、そのまま万年床の一部と化す。しばらく様子を見るも変化なし。
「だめだこりゃ。こんな状態でジープに乗ったら、確実に事故っちまう。軽トラでも無理だ」
 やむなくたがみさんに電話。
「すんません。今日、鬱が酷くて行けません」
 あーあ。高名な漫画家に作品をお願いしておきながら約束の日に受け取りに行けないなんて、依頼主として最低だよ。でも仕方ない。無理して行った結果、事故で誰かを傷つけたり、せっかく描いてもらった作品を駄目にしたのでは、取り返しがつかなくなる。
 今度はドタキャンしないよう、体調の変化をじっくり考えながら、
「明日、受け取りに行こうかと思っていますが、ご都合はいかがですか?」
 と電話したのは、4月24日夕刻のこと。
「予報じゃしっかり雨が降るらしいから、全天候型サルーン(別名:軽トラ)で行くとすっか。これなら、受け取った作品が濡れる心配もないし…」
 ところが…。雨が降るなら屋根とドアのある車で行けば良いという考え方は甘すぎたらしい。その日、たがみさんのブログを拝見すると、ジープで来るよう暗に示唆する一文が…。
「これで、ジープで行かなかったら男が廃るってモンよ。行くっきゃない」
 かくして、長靴、合羽、迷彩ポンチョという出で立ちの中年ヤモメは、そぼ降る雨の中を一路小諸へと向かった。
 ちなみに、雨よけでもあるフロントウインドウのワイパーは、ブレード長が20cmくらいで払拭範囲は扇状に45度ほど。おまけにブレードゴムが劣化しているので、まともに拭き取ってくれない。ここで不足する視界は、上体を乗り出すことで確保する。
 たがみさんは前回よりも元気になっておられたし、いつもながらたがみさんの天才ぶりに驚かされたし、今回も奥方の「内助の功」に感心させられたしで、原稿ばかりでなく目には見えない多くの「何か」を頂いて来た。
 おかげで、往復200kmの雨天ジープ行は充実しまくり。体の一部はずぶ濡れで、狭い視界により目が疲れちゃったけど、ジープで行ったのは正解だった。25年も乗り続けていると、車に乗っていると言うより手足を動かしているという感覚なんだよね。
 帰宅後、疲れを意識しながら深夜までたがみさんの作品を読み耽るのは、至福のひととき。時間を忘れて漫画に没頭するのは、実に久しぶり。たがみさんと奥方に感謝感謝。
 

単純だから難しい。 

 世界にあまたある言語の中でも、日本語は、とりわけ文字の多い部類に入るらしい。そして、漢字の簡略化から生まれた平仮名と片仮名は、構成が単純であるが故に難しい一面も持っている。
 先日、埼玉県内某所米売り場で見かけた表示は、その一例。ワープロやパソコンが普及するに従い、こうした温もり(?)のある手書き札を見かけなくなったのは、ちょっと寂しい。

単純だから難しい。20090419-02
▲「コツヒカリ」…。それって新しい品種ですか?

 ここで、想像力を膨らませてみよう。
-ある日、この米を買って行った客が来て文句を言う。-
客:
「この前買ったお米なんだけどさぁ、何だか味も歯ごたえも変なんだよね」
店主:
「そお? 変だった? ウチの田んぼで収穫した美味いヤツだけど…。変だった?」
客:
「うん。変だった。本当にコシヒカリなの?」
店主:
「あ?? コシヒカリ? なに言ってやんでぃ。こりゃあコシヒカリじゃねェ。“コツヒカリ”だ!」
客:
「コ、コツヒカリ? “コツヒカリ”って何だよ。騙しやがったな、このヤロー!」
店主:
「バカ言ってんじゃねェ! ちゃんと“コツヒカリ”って書いてあンだろ。それにオレぁ今まで“コシヒカリ”なんて一言も言ってねーよっ!」
客:
「…」
店主:
「あンたが勝手に勘違いしただけだろ? オレが長年かかって品種改良した“コツヒカリ”だ! “コツヒカリ”は“コツヒカリ”なんでぃ」

 話を現実に戻すとして、“コシヒカリ”より“コツヒカリ”の方が、歯応えがあって美味そうに感じられるのは、私だけ??

ムキムキ。 

 先日、またまたXさんが来られた時の出来事。
 近くにあったヒノキの間伐丸太を適当に切り、即興でテーブルの脚をこしらえてみたところ、一緒に来たスタッフが打ち合わせ中に手持ち無沙汰のXさんが、何気にヒノキの皮を剥き始めた。
 しかし、これがXさんのツボにはまったらしい。ちょっと手が空くと、すぐにテーブルの所へ行ってヒノキの皮剥きに没頭している。その気持ち、よくわかる。
「子供の頃、日焼けした皮をペリペリッと剥いた、あの楽しさに似ているでしょ?」
 と、振ってみたところ、
「そーなんですよ」
 と、Xさん。さらに、
「この、節の部がパリッと剥けた時は気持ち良いッスね」
 そんなこんなで、用件がが終わる頃には、4本の脚がツルツルに剥かれていた。
 たぶんまた来られるだろうから、ヒノキの間伐丸太を沢山用意しておくとしよう。それとも、「楽しそうな」部分だけを選んで玉切り、Xさんの暇つぶし用としてジャニーズ事務所へ送っちゃおうかな。

ムキムキ。20090414-01
▲Xさんがムキムキしたヒノキの丸太。奥の1本が斜めになっているのは、ご愛敬。

嬉しい知らせ。 

 昨年の夏に下刈り作業を手伝った森が、育林コンクールで農林水産大臣賞に選ばれたと、お世話になっている農林業家で木こりの山田さんから知らされた。
 私が作業したのは1反くらいだから、森全体の一部でしかない。それでも、わずかながら自分が関わった森がこうした賞を受けるというのは、素直に嬉しい。
 今年も森の手入れが出来るよう、刈払機用の高品質チップソーも買っとかなくっちゃ。

好評。 

好評。20090406-01
 ネコ車に積んでいるのは、ヴィポキルヴェスを試しに来た方が割ったコナラの薪(記念品としてプレゼント)と、お買い上げ頂いたヴィポキルヴェス(梱包状態)。
 斧の試し割りサービスは好評で、来られた方すべてに喜んで頂いているし、ご自身の使い方にあった斧を買って行かれる。もっとも、試し割りは斧の購入を検討している人に限ったサービスなので、商談成功率100%という数字は、ある意味当然かもしれない。
 現在、焚き火屋で扱っている薪割り斧は7種類(手斧を除く)。それぞれに性格が異なり扱い方も違うので、それらを使い比べた上で買えるというのは、お客さんにとって魅力あるものだと自負している。売る側としても、扱い方を覚え商品に納得してから買ってもらうのが理想的。
 嬉しそうに斧を買って行かれる方の笑顔を見ると、丸太の切り出しや場所のセッティング、そして後片付けなど、試し割りにかかる労力も苦にはならねェってもんよ!

ボランティア来たる。 

 先日のこと。朝、陣を散歩させていたところ、道端に停めた軽バンの中から、
「焚き火屋さんですか?」
 と声を掛けられた。
 お客さんだ! と喜びながら話を聞いてみると、商品を買いに来たのではなく、作業を手伝いに来たとのこと。
「ブログを読んでいたら、何か手伝いたくなっちゃって…」
 ???。 なぜ無償労働したくなるのか、その心理が理解出来ない。とはいえ、せっかく来てくれたのに、何もしないのはもったいなかろう。「立ってるものは親でも使え」と、親から教えられていたし…(嘘)。
 で、第4置き場から第3置き場へ玉切り丸太運びを手伝ってもらうことに。おかげで当日は、いつもより多い600kgの薪を作れた。笑顔で働いてくれたI.T.さんには感謝感謝。I.T.さん、また来てね。

ボランティア来たる。20090403-01
▲今の私には、1日あたり軽トラ1台分の薪を作るのが精一杯。高望みせず、出来ることをこなしていればそれで良し。